
レボトミンを飲み始めて思考回路が停止気味です。こんばんは、青海ゆうきです。
読みたい本はいつも無限にある。
2月にツイッターのフォロワーさんとの連動企画で、読書垢のフォロワーさんが選ぶ2018年に読んで良かった本。という記事を書いたのだが、ここに紹介されている本も読みたい本リストにいくつか入っている。
その中でも一番読んでみたいと思ったのが多島斗志之さんの「症例A」だ。
紹介文の中で、「精神科医を弄ぶ17歳の少女」というフレーズを見た時に、これはもしかしたら自分の障害に関係する話なのかもしれないと直感した。
そんな「症例A」を先日読み終わったのでレビューしたいと思う。
症例Aについて
2003年に角川書店から出版された多島斗志之さんの小説。
精神科医の榊は、患者である17歳の亜左美という少女の治療に悩む。
亜左美の症状から榊は「境界性パーソナリティー障害」だと判断し、厳しい態度で接するようになるが、臨床心理士の広瀬は「解離性同一障害」の可能性があると榊に伝える。
二人の意見は対立し、榊は「解離性同一障害」について一切認めようとしない中、広瀬がある衝撃的な事実を榊に伝える。
作者について
早稲田大学政治経済学部卒、ミステリー小説を多く書いている作家。
1982年『あなたは不屈のハンコ・ハンター』で第39回小説現代新人賞を受賞。
『密約幻書』で第101回直木賞候補、『不思議島』で第106回直木賞の候補作となる。
冒険小説『海賊モア船長シリーズ』や天海祐希主演で映画化された『クリスマス黙示録』、純愛小説の『離愁』など幅広いジャンルの小説を書いている。
1989年頃に右目を失明しており、左目も調子が悪く(両目を失明することで)人に迷惑をかけたくない、という旨の手紙を書き残し2009年12月19日、滞在していた京都のホテルを最後に消息を絶っている。
症例Aのレビュー
まずこの小説はミステリーというよりは、精神医学の一部分を小説風に解説したもの、という印象であった。
なので以前から精神医学に興味がある人や医学関係者、友人や知人に精神疾患を抱えている人がいる、など何らかの興味があったり関わりがある人にはとても考えさせられる内容になっている。
僕は自分自身の障害について書かれてあったということで大変興味深く、楽しみながら、また考えさせられながら読むことができた。
「症例A」に出てくる大きなテーマは、「境界性パーソナリティー障害」「解離性同一障害」「精神科医と臨床心理士」だ。
患者の亜左美が、「境界性パーソナリティー障害」なのか「解離性同一障害」なのかをめぐって精神科医と臨床心理士が対立し始める。
何故、亜左美の診断が定まらないのか。
それは二つの障害には共通する症状が多く、かつ、精神科医の「解離性同一障害」対しての障害そのものに対する疑念があるからだ。
これはこの二つの障害にかぎったことではなく、パーソナリティー障害の多くは似たような症状がそれぞれにあり、はっきりと特定するのが難しいというのが実情だ。
そして、パーソナリティー障害というのは性格の延長線上にあるものなので、どこからが障害だという明確なラインがない(基本的には自分の生活を脅かしたり社会的活動に支障をきたす場合には障害とされる場合が多いようだ)
それを判断するのが医者だろう、と思うかもしれないが、そもそもパーソナリティー障害については原因、治療法、基準、定義が未だに不確定で、~である可能性が高いとか、~は有効であるとされている、などはっきりとしない説明がされている。
そんな定義も曖昧なものを識別するのは至難のわざであるし、医者によって解釈や意見が違うのも当たり前なのだ。
これが前提にあって、「症例A」では精神科医と臨床心理士それぞれの経験に基づいて亜左美の診断をしているというのが小説風だと思う一番の理由だ。
まだ僕が「境界性パーソナリティー障害」と診断される前、一番心の状態が不安定だった時のことだが、症状の一つに「解離」があった。
わずかな時間だが記憶が抜けることがあり、その間にしたことはとてもいつもの自分がするような行動ではなかった(他者から聞いた)
しかしこれは一時的に記憶が曖昧になっているだけで、解離性同一障害のように人格が複数あって入れ替わった、というのとはおそらく違う。
何故違うと思うのか、一つは別人格に名前がないということ。
記憶が曖昧な時にそばにいた人の話によると、たしかにいつもと違う感じだが、口調や声が変わったりはしないし、不可解なことを喋るということもなかったからだ。
しかしもし何らかの精神的衝撃や「解離」でも耐えられない現実が続けば、「解離性同一性障害」になっていたかもしれないと思うのだ。
共通して言えるのは、人間は耐えられない現実を突きつけられたり、記憶をなくしてでも何か他者に伝えなければ自分が崩壊すると判断した時、「解離」が起きる、ということだ。
それは欠陥ではなく、自分を守るための防衛本能だと僕は思う。
医学は進歩していると言われつつも精神医学はまだまだ解明されていないことも多く、治療法が確立されていないものも多い。
体のどこかに異常があって(例えばホルモンのバランスや鬱状態になった時の脳内物質の変化であったり)薬で対処できるものは治療の終わりが見えるのだが、そうでないもの(このレビューで紹介した二つの障害も含め)はどの段階で「治る」と言っていいのか、それすらはっきりとしないのだ。
障害だと診断する上でポイントとなる、自分の生活を脅かしたり社会的活動に支障がないか、を基準に「治った」としたとしても、それが本人にとっての「治った」という自覚と伴わなければ本当に「治った」ことにはならないのではないだろうか。
MUBOOK的評価
悲しい ★★☆☆☆ 切ない ★☆☆☆☆ 苦しい ★★★☆☆ 暗い ★★★☆☆ 重い ★★★★☆
合計 13/25★
病んでる度60%
まとめ
「症例A」は作者の想像の域ではなく「境界性パーソナリティー障害」と「解離性同一障害」の書籍などを参考にリアリティのある内容となっている(参考文献を見ていただくとわかることだがその多さに驚かされる)
冒頭に、精神医学に興味がある人や関わりのある人は楽しめると書いたが、全く知らない人が読めば、それはそれで小説的な意味で面白く読めるのではないかとも思った。