
どうも、グレーゾーンが苦手な青海ゆうきです。
真相は藪の中、の語源になった芥川龍之介の超短編小説「藪の中」。僕の一番好きな芥川小説だ。
小説のタイトルが日本語の表現の一つになるなんて素敵だ。
何故この物語が、藪の中というタイトルなのか、また藪の中とはどういう意味なのかを本のレビューとともに解説していく。
藪の中について
平安時代に起きた殺人と強姦事件について、3人の当事者と4人の目撃者の証言が書かれている。
起こった事件に対してそれぞれ証言が違っていて、誰が本当のことを言って誰が嘘をついているのかがわからず最後まで真実はわからないまま終わり、この物語から、真実が不分明(明らかにならない)ことを、(真実は)藪の中という言葉が生まれた。
作者について
「藪の中」の作者、芥川龍之介は1892年東京生まれ。
文学が好きな人でなくても名前は誰でも知っているだろう。
「羅生門」や「蜘蛛の糸」「地獄変」などは学校の教科書にも載っており、歴史的小説家の一人だ。
最近では「文豪ストレイドックス」などのアニメがブレイクし、更に名前が世間に知られるようになった。
短編小説はとくに評価が高く、「鼻」は夏目漱石の激賞を受けたことでも有名だ。
そんな芥川龍之介だが、1925年(33歳)頃から体調がすぐれず、1927年に服毒自殺をしてしまう。
自殺の動機として記された「唯ぼんやりとした不安」という言葉も有名だ。
内容
藪の中で一人の男が胸を刀で突かれ死んでいる。
死体の第一発見者や、関係者の証言から始まり、多襄丸という盗人、殺された男の妻、巫女(殺された男)の3人がそれぞれここで起こったことを話すのだが、3人の証言は食い違っている。
多襄丸は男を殺したのは自分だと言い、妻は夫を殺したのは自分だと言い、夫は自害したと証言する。
レビュー
この作品を読み終わった後、誰が本当のことを言っているのかしばらく考えたが、3人の話で明らかにおかしい証言はなく、誰の話が本当でもおかしくないということから結論は出せなかった。
20分ほどあれば読み終わる長さの文章で、登場人物の性格も細かいところまではわからない。
真実を追求すればするほど余計わからなくなってしまって、まさに藪の中。
ミステリー小説には、オチがあるものと、ぼんやりわからないまま終わるものとあるが、藪の中は圧倒的後者で、白か黒かハッキリさせたい性格の僕は何度も読み直して真実を探そうとした。
僕のように証言の正当性や証言者の立場から真実を見つけようと考察した人も多いと思うが、それも結局可能性にしかあらず、このモヤモヤした感情を完全に消し去るには至らないだろう。
おそらくだが、これは答えを出せない小説である。
では一体、この小説は何を語っているのだろうか?
それはまず、真実とは一体何を意味するのか?
ということと
そして、真実に意味はあるのか?
という問いだと思う。
この二つについては別の記事で書こうと思う。
mubook的評価
悲しい ★★☆☆☆ 切ない ★★★★☆ 苦しい ★★☆☆☆ 暗い ★★★★★ 重い ★★★★☆
合計 17/25★
病んでる度80%
映像で楽しみたい人には
「藪の中」を原作とした映画は多数あるが、その中でもおすすめなのが「MISTY」。
金城武、天海祐希、豊川悦司が出演している映画で、1997年10月にVHS(ビデオ)、2000年4月にDVDが発売されている。
官能ミステリーで少しエロい。
そして天海祐希が素敵すぎる。ほんと大好き。
しかしこのDVD、廃盤希少品で新品だと1万4千円前後、中古でも1万円前後とプレミア価格がついている。
僕はレンタルショップがDVDではなくVHSメインに置かれていた時代にたまたま見つけて観ることができたからラッキーだった。
VHSなら中古で安く手に入るが、数はかなり少ないと思われる。
一番有名なのは1950年公開、黒澤明監督の映画「羅生門」。
芥川龍之介の小説「羅生門」と「藪の中」を原作とした映画で、公開当初は日本での評価が低かったが海外での評価が高く、この映画をきっかけに黒澤明監督と日本の映画は世界で認知されるようになった。
アカデミー外国語映画賞など様々な映画賞を獲った有名作品ということもあり、デジタル完全版としてちゃんとDVDになっている。
最近だと「藪の中」を原作として、盗賊の多襄丸を主人公にした「TAJOMARU」という小栗旬主演の映画もある。
原作とはかなり違った話の展開だ。
原作が難しく感じた人や単純に小栗旬が好きな人にはおすすめできるが、原作に忠実でないと嫌な人にはおすすめできない。
ただこういう作品を通して文豪の小説を手にとるきっかけになったらいいなあと僕は思っている。
まとめ
芥川龍之介は短編小説ではとくに評価が高く、その中でも超短編の「藪の中」は僕が最もおすすめする芥川作品だ。
すごく短い小説なので「藪の中」だけを収録している本はなく、短編集として他の作品と一緒に収録されている。
何度も読んで真実を探してみるのもよし、真実がわからないまま作品の世界観に浸るのもよし。
是非気軽に読んでみてもらいたい。