
思い入れのある作品は自分と重なる主人公がいる。
どうも、病んでる人こと青海ゆうきです。
「蛇にピアス」の主人公と自分がシンクロしすぎていて某エヴァンゲリオンのように本に溶けてしまいそうだった。早くエヴァの映画が観たいね(そこ)
今回は金原ひとみさんの小説「蛇にピアス」を紹介する。
「蛇にピアス」について
第27回すばる文学賞を受賞、綿矢りささんの『蹴りたい背中』とともに、第130回芥川龍之介賞を受賞した作品。
生きている実感のない19歳のルイがスプリットタン(蛇のような二つに分かれた舌)にしていく過程や背中に刺青を入れる話だ。
過激な内容ながらも物語の純粋さや細部描写の秀逸さから評価された作品だ。
2008年9月に映画化されている。
作者について
参考サイト:金原ひとみ | 著者プロフィール | 新潮社
内容
主人公のルイは恋人のアマのスプリットタンに憧れ、アマの行きつけの店の店主シバに舌ピアスをあけてもらう。
生きている実感のなかったルイは、ピアスを拡張していく痛みに取りつかれアマには内緒で背中に刺青をすることを決める。
ある日の夜、ルイが友達と歩いていると知らない男たちに絡まれる。
恋人のアマはそれに激昂し、男たちに暴力を振るい歯を二本奪う。
この事件で警察が動き始めたことを知ったルイはアマの容姿を変えたりと捕まることに不安を抱きながら生活する。
レビュー
僕は十代の頃初めて耳にピアスをあけてから、二十歳になるまでには2Gのボディピアスをしていた。(ボールペンが通るぐらいの穴でピアスを外すと向こう側が見えるくらいの大きさ)
そこまで大きな穴にするには少しずつ拡張していかなければならないし、当然痛みも伴う。オシャレとしてピアスをする、というよりは痛みの先にある成果を保有したかったと言ったほうが近い。
話は少しそれるが、リストカットをする人の多くは、切る時の痛みと流れる血を見ることで生きている実感を得られると言う。
人間にとって生きている実感というのは当然あるものだけど、心が死んでしまっている時には生きている実感を得られず、その実感を早く取り戻そうと自分を傷つける行為に走るということがあるのだと僕は自分の経験から学んだ。
痛いと感じる=生きている、という証明のようなもの。
幸せを感じることが難しい状態の人間は、生きるために(生きている実感を得るために)痛みを感じているのではないだろうか。
この作品は、ピアスや刺青のファッション性ではなく、完成するまでの過程で感じる痛みを通して自分の存在を確認している、という内容。
ルイと似たような経験をしたことのある人には共感を得やすい作品だ。
しかし、例えばボディピアスや刺青に対して「そこまでする必要がわからない」と思っている人にも読んでほしい作品だ。
MUBOOK的評価
悲しい ★★☆☆☆ 切ない ★★★☆☆ 苦しい ★★★★☆ 暗い ★★★★☆ 重い ★★★★☆
合計 17/25★
病んでる度85%
映像で楽しみたい人は
2008年9月に金原ひとみさん本人の意向を受けて蜷川幸雄監督による映画が公開された。
主演の吉高由里子の初主演映画だ。
他にも高良健吾、小栗旬、唐沢寿明、藤原竜也と豪華なキャストだ。
ストーリーは原作にかなり忠実だが、やはり純文学の映画化というのは難しいと感じさせられた。
R15指定で、映像のインパクトが強すぎて肝心の主人公の心情がなかなか入ってこない気がした。
原作を読んでない人が映画を観ると、一体何の映画だったんだと思うかもしれない。
この映画は原作を読んでから観るのが一番楽しめる方法だと思う。
音楽を楽しみたい人は
芥川賞受賞作品を映画化するとあまり評価が良くないのは、純文学を映像化するのは難しいということだ。
エンターテイメント作品はストーリーの展開やキャラの個性が特徴的で映画にもしやすいと思うが、純文学は人の内面や物事に対する考え方のほうに重点があるので、映像にするとどうしても表面だけになってしまいがちだ。
ただ音楽は直接感覚(心)に働きかけるものだから原作の雰囲気を映像よりも表現しやすいと思う。
ということでいつも紹介するのはサントラ。
好きな小説が映画化されると嬉しいのはサントラが聴けるからと言っても過言じゃない。
【関連記事】サントラが素敵な作品
→小説「冷静と情熱のあいだ」をレビュー!切なくて、切なくて苦しい
まとめ
今でこそボディピアスや刺青はファッションの一部として理解されつつあるが、この本が出版された約10年前は若者であってもこれらに偏見を抱く人も多い時代だった。
そんな中「蛇とピアス」は、人体改造にのめりこんでしまう若者の心の闇やマイノリティな人間の心理をストレートに描いたことで注目を浴びた作品だと言える。
難しい言葉や表現は使われていないのに人間の心理が細部まで表現されている。
是非読んでみてほしい作品だ。